カプチーノ·カシス
顔とスタイル、それが良かったのは間違いないが、中でも唇が印象的だった。
厚めの唇にたっぷりのグロスが乗っているからか、唇ごとこぼれ落ちそうなほど潤っていて……
それを切なく半開きにしている表情を見て、俺の食指が動いた。
そうして初めてナミを抱いたときの記憶は、今でも身体と心の両方に鮮明に焼き付いている。
場所はラブホの一室。俺がナミの服を脱がせている間に、彼女の方も俺のシャツのボタンに手を掛けていて、生意気な女だと思いつつ、互いに素肌を晒した。
確か季節は夏で、にも関わらず部屋の空調がイマイチ聞いていなかったから、ナミの白く柔らかな肌には玉のような汗がいくつも浮かんでた。
「こんな綺麗なのに……出会い系なんてやる必要あったのか?」
「……だって、知り合いには、見せられない……こんな、自分」
「こんな自分?」
俺の愛撫に眉根を寄せ、苦しげにナミが言う。
「今日、初めて会った人とこうなって……しかも、ちゃんと感じてる、どうしようもない自分」
「どうしようもないのはお互い様だ。……だから遠慮する必要はない」
身体をつなげて、腰を揺らしながらキスをした。
ナミとのキスは甘い。
甘くて、アルコールみたいに俺を酔わせる力もある。
だけど何故だか切なくて、それは彼女がずっとくすぶらせている恋心が、唾液と一緒に流れ込んでくるせいなのかもしれない。
唇も離した後も、目を閉じたままで呼吸を整える彼女に、俺は強い口調で言う。
「ちゃんと目ぇ開けて俺を見ろ」
「え……?」
「俺に誰かを重ねるより……ちゃんと俺に抱かれろ」
わかった、と小さく頷いたナミは、言われた通りにその瞳に俺を映しながら、俺の身体にしがみついた。
俺に気に入られたいなんて感情は一切持たないナミは、芝居くさい嬌声を上げて俺のご機嫌取りなんてしない。
本当に感じた分だけ、けれど存分に感じたときにはあられもない姿で乱れる。快楽に正直な、魅力的な女だと思った。