カプチーノ·カシス


そんな彼女がのぼりつめる姿を見下ろしていると、俺はどうしてか満たされた気持ちになった。

だがその時はそれが恋心だなんて思いもしなかった。

自分の想いをちゃんと自覚するようになったのは、初めて会社でアイツを見たときからだ。


ナミとの関係を始めてから二年余りが経ち、焙煎から開発に部署が異動になった俺。

そこで初めて昼間のナミを見たとき、俺は自分が思った以上に心が乱されたのだ。

……俺は、夜のナミしか知らない。

寂しさに押しつぶされた姿しか知らない。

だけどこれからは、昼間ナミがどんな風に片想いの相手に胸を焦がしているのか、それを見なくてはならない。


それに気づいた瞬間俺は舌打ちをしたい気分だった。

そしてそんな感情を抱いた自分自身に驚き、胸の内でこう呟いた。

俺はこの女に……武内愛海に……

完全に、惚れてるらしい。


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