カプチーノ·カシス
「今夜……一線、越えちゃうのかな」
「んなわけ――」
思わず立ち上がってしまった俺に、石原が静かに尋ねる。
「ないって……言えますか?」
――言えない。
むしろ越えてしまう可能性の方が高いような気さえする。
身体だけは、俺のものだったのに。
上手く行かない恋だから、俺という存在が必要だったのに……
「僕は、とりあえず自分にできることをします」
意外にも落ち着いた声で石原が言った。
「何だよ……できることって」
「柏木さんには内緒です。だって僕たちライバルでしょう?」
石原の言葉に俺は深いため息をつき、どかりと椅子に腰かけると苦々しく呟いた。
「……身内に敵が多すぎる」