カプチーノ·カシス


……何を聞いているんだ、彼女は。

興味本位かそれとも女性として尾崎さんに怒りを感じているのか……

俺は尾崎さんが怒り出さないか心配になったが、彼は気分を害した風でもなく、彼女の問いに答えた。


「こんなこと言ったら怒られそうですけどね。どっちも、愛してますよ。仕事を頑張るのは妻のため、家族のためですが……家族と離れても頑張り続けられるのは、彼女のおかげですから」


どっちも、愛してる――だなんて。

そんな言い分が通っていいのか?

俺には、尾崎さんがただの狡い奴にしか見えない。

孤独を浮気の言い訳にしているだけだ。


口には出さないが何か腑に落ちないと思う俺とは裏腹に、武内さんは納得したようにこう言った。


「最終的にはきっと奥様を選ばれるんでしょうけど、それをわかっていても彼女はきっと、幸せでしょうね」


ふ、と尾崎さんの微かな笑いが聞こえた。


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