カプチーノ·カシス
◇石原 元基side◇
初めて愛海ちゃんに出会ったのは、入社して三ヶ月ほど経ったある夏の日。
コーヒー開発課に人手が足りなくなったため、コーヒー好きの社員があの部屋に集められて簡単なテストをされたんだ。
僕がそのとき所属していたのは生産部の包装課で、コーヒーには全く縁がなかったにも関わらず、当時の上司は一番下っ端の僕を追い出すようにテストを受けさせた。
「それでは、1~3のコーヒーを飲んで、どれが最も美味しいと思ったか記入用紙に書いて下さい。そしてそれを選んだ理由も」
……どれが美味しいかだって?
そんなの、人それぞれの好みじゃないのかな……?
僕は試しに三つとも飲んでみたけど、どれも同じ味にしか感じなかった。
当てずっぽうで解答を書いても、理由までは思いつかない。
そこで僕はなんとも姑息な手段に打って出た。
―――カンニング、だ。