カプチーノ·カシス
「課長……?」
「自分がこんなに優柔不断で情けない奴だとは思わなかった。武内さんに惹かれてるのは事実だし、きっと付き合ったら楽しいんだと思う。でも……」
聞きたくないことを言われるんだと一瞬で理解したあたしは両手で耳を塞いだ。
なのに……
「武内さんを抱くことと引き替えに、色々なものを失う気がする。それらを捨てたら、自分がどうなってしまうのか、自分に何が残るのか……知るのが怖い。だから……俺は帰るよ、自分の部屋に」
あたしの耳は大好きな課長の声に敏感過ぎて、見えない隙間から入ってくるその声を聞き漏らしてはくれなかった。
「……おやすみ、武内さん」
待って……!
引き留めようにも、声が出せなかった。
口を開いたら嗚咽が漏れそうで、それを押さえるように手で口を塞ぐ。
彼はあたしがそうしているうちに、部屋から立ち去ってしまった。