カプチーノ·カシス
「ぅ………っく」
今日しかなかったのに。
こんなチャンスはもう二度と、訪れないのに。
口に当てた手の上を、幾筋もの涙がこぼれ落ちていく。
あともう少しで掴めそうだった恋の尻尾。
でもそれは寸前で私の手をすり抜けて、もう見えなくなってしまった。
あたしはベッドに倒れ込み、自分を抱きしめるように体を丸める。
今頃、課長の手によって熱くなる筈だった身体を自分で温めるのは、ひどくむなしかった。
そのせいか、どんなに肌をさすろうとあたしは冷たいままだ。
グスッ、と鼻を啜りながらあたしはバッグに手を伸ばす。
「……起きてる……かな」
アイツに電話しようと思った。
今夜は抱いてもらえないけど、それでもこんな情けない姿を晒せる相手はアイツしかいない。
……何でもいいから、言葉をかけて欲しい。
すがりつくような思いで『ハル』の二文字をリダイヤルから探し出すと、あたしは携帯を耳に当てた。