カプチーノ·カシス
もう夜も遅いから、電話に出てくれない可能性もあると予想していたのに、コール音は一度目で途切れた。
……まるで電話がかかってくることを予期していたかのように。
『どうした、こんな時間に』
――ああ、いつものハルだ。
その艶っぽい声が体中に染み渡り、遠く離れた場所に居るはずなのに抱きしめられているような錯覚に陥って、あたしは思う。
やっぱり、ハルに電話して良かった。
「課長に……逃げられちゃった」
こんなあたしを笑って欲しい。
そしてそのあとで、“お前はいい女だ”と、慰めて。
そうすれば、今夜は眠れる気がする。
『まだ、明日もあるだろう』
「え……?」
『観光するんじゃなかったのか?』
ハルに言われて初めて思い出した。
明日も、午後までは大阪に居られるってことを。
でも……
「もう無理だよ……夜とお酒の力を借りても駄目だったんだから」
あたしはすっかり弱気になって呟く。