カプチーノ·カシス


『でも、好きなんだろ……? 課長のこと』


ハルに言われて、あたしは自分の胸に手を当ててみる。

あたしの体の中に誰かが手を入れて、力任せに心臓を握っているような……そんな痛みがずっと続いてる。

こんなに胸が痛いのは、きっとあたしが、まだ課長を好きな証拠だ……


「好きだよ……大好き」

『ならもう一度悪あがきしてみろよ。もしそれでも駄目なら……』

「駄目なら……?」

『……俺んとこに、来い』

「慰めてくれるってこと?」

『違う』


じゃあ何?と聞こうとすると、電話の向こうで一度咳払いをする音が聞こえて、そして――



「俺の女になれって言ってるんだ」



突然の提案に、あたしは一瞬だけ課長のことを忘れ、目を瞬かせた。

ハルの女になる。

それは本当の意味で、“彼女になる”ってこと――?


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