カプチーノ·カシス


あたしはあまりの衝撃に、持っていたバッグを落としてしまった。

今日のためにすべすべにお手入れした肌とか、丁寧にブローした髪とか、さっき塗り直したグロスとか……

そういうものが、目的を見失い一気に色褪せていくのを感じた。


「大丈夫? 持とうか」


課長はあたしの落胆ぶりに気づいている筈なのに、あたしが落としたバッグを拾ってエレベーターの方へ早足で歩く。

あたしは、唇を噛みしめながらその後ろをついて行くしかなかった。

塗りたくったグロスの味が、あたしをさらに惨めな気持ちにさせていく。


……自分で味わうために塗ったんじゃない。

こんな風に自分の歯で削り取るために塗ったんじゃないのに。


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