カプチーノ·カシス
チェックアウトを淡々と済ませ、タクシーで新大阪まで向かう途中もあたし達に会話はなかった。
課長はどういうつもりで黙っていたのかわからないけれど、あたしは鼻の奥がずっとツンとしていて泣き出すのを堪えるのに必死だった。
グロスも、そしてグロスの中に閉じこめていた口紅もきっと剥げているから、涙でマスカラまで落ちて、さらに醜い顔にはなりたくなかった。
「……切符、交換してくる」
久しぶりに課長の声を聞いたのは、新大阪の駅だった。
あらかじめ持っていた午後発の新幹線の切符を手に、みどりの窓口に消えていく。
課長が側を離れて緊張感が解けたのか、あたしは今まで我慢していたものがこみ上げてきてしまって、溢れる涙を止めることができなかった。
十分もすれば課長は戻って来てしまうのに、どうしよう……
そう思っても一度決壊した堤防は元に戻ってくれそうになくて、あたしはとりあえず近くにあったベンチに腰掛けた。