カプチーノ·カシス


「……あたし、食欲ありそうに見えます?」

「いや……」

「じゃあ何で買ったんですか? これを一緒に食べながら、楽しい会話が今のあたしたちにできると思います?」

「俺は、できるだけ普通に接しようと思って――」

「あたし、そんなに大人じゃありません!」


思った以上に大きな声が出てしまい、あたしは急に恥ずかしくなった。

これじゃ本当に、ききわけのない子供と同じだ。

課長の目にはきっと、どんどん魅力を失って痛々しい女になっていくあたしが映っているんだろうな……


「ごめん……じゃこれ、武内さんの切符」

「……どうも」

「それじゃ……」

「お気をつけて」


改札に吸い込まれていく背中を見送りながら、あぁ、やっぱり帰っちゃうんだ、と思ってしまう自分が居る。

あたしの涙は課長の心を動かす力もないんだ。

なのにどうして次から次へと湧いてくるのよ……!


< 162 / 349 >

この作品をシェア

pagetop