カプチーノ·カシス


「お願い……」


だって、会社であたしと会う前に、課長は家族の待つ家に帰るのだ。

それからじゃ、遅いの。

きっと、魔法が解けてしまう。



「……昨夜の電話で、石原に言われたんだ。“課長は、二人の女性を不幸に陥れようとしてるんですよ”――って。その通りだと思った」



――発車まで、あと三分。

階段を下りてきた乗客たちが慌ただしく乗車していく。


「今、武内さんを泣かせているのは俺だけど、でもきっと、その涙はこれから幸せになるのに必要な涙なんだ。それを俺が慰めちゃいけない」

「そんないつ来るかもわからない幸せなんて要らない! あたしは……あたしは、ただ……」


課長が好き。


ただ、それだけなのに……



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