カプチーノ·カシス
もしかして――――
慌ててバッグを探り、まだ震え続ける携帯のディスプレイを確認する。
「課長……」
すぐに通話ボタンを押したいところだけれど、話し声でハルが起きてしまうかもしれない。
それを恐れて、かけ直そうかとも思った。
でも、こっちからの電話は極力避けるべきだという自分の立場を思い出し、あたしは結局電話に出ることを選んだ。
「――もしもし?」
『ああ、良かった。まだ起きてた?』
たったそれだけの会話なのに、課長の声にあたしへの好意が滲んでいる気がして胸がときめいた。
あたしは口元を緩めながら、床にふにゃりと座る。
「起きてましたよ。課長、電話大丈夫なんですか?」
『うん、俺以外はもうみんな寝ているから。……明日会社で会えるのはわかってるんだけど、どうしても……声が聴きたくて』
甘い台詞にジン、と耳の奥が痺れる。
……やっぱり電話に出て良かった。