カプチーノ·カシス
ここはとある食品会社の本社。……の、一番端にある部署『コーヒー開発課』。
この会社は主力商品であるコーヒーを家庭用から業務用まで多岐に渡って生産しているけれど、そのすべての味はあたしたちが決めていると言っても過言ではない。
「今週はひとつも間違えてない、調子いいね」
切れ長で少し下がった瞳をさらに細めてあたしに微笑むのは、この課で一番偉いひと――吉沢俊樹(ヨシザワ トシキ)課長。
あたし、武内愛海(タケウチ マナミ)は、今まさにこの人に片思いをしている。
「いえ、課長が簡単な問題を選んで下さってるからで……」
「でも成長してるのは確かだよ」
毎朝、自社のコーヒーのうちひとつを課長が淹れてくれて、風味だけでそれが何なのか当てる……
それが、あたし“達”の習慣。