カプチーノ·カシス
遠慮がちに伸ばした舌はハルのそれによってさらに引き出され、そして……
「……っ!?」
いきなり鋭い痛みが、あたしの舌先に走った。
思わず閉じていた瞳を開くと、ハルはあたしから身体を離して清々しい表情をしていた。
「な、に……するの」
口の中に広がる鉄の味で、気づく。
――噛まれたんだ。
血が出るほどに、強い力で。
「その口に課長の舌が突っ込まれたら、さぞかし痛いだろうな」
「な……っ」
「……そいつは、俺の痛みだと思え」
「ハル……」
「もう帰っていい。いや……早く帰ってくれ」
――ひどい。痛い。そう思う心の反対側では、ごめんなさいと謝る自分もいる。
それがごっちゃになって胸が苦しくて、何か言いたいけど言葉は喉に詰まってしまって、あたしは結局黙ってハルに背を向けることしかできなかった。