カプチーノ·カシス


タクシーで自分のアパートに戻ると、あたしは部屋に入ってすぐに棚からビタミン剤の瓶を取り出した。

こんなもので傷が良くなるとは思わないけど、何もしないよりはマシ……

肌荒れの他に口内炎にも効くらしいそれを、いつもより一粒多く口に放り込んで水で飲み込んだ。

舌先がチリチリと痛む度に胸の中に憂鬱が降り積もっていくような気がしたけど、あたしはそれを振り払うようにコートを脱ぎ捨てると、バスルームに飛び込んだ。


いつもより強めに身体を洗いながら、思う。

舌こそ噛まれたけれど、ハルはあたしの身体にキスマークは残さなかった。

課長とあたしの中を壊したいなら、そっちの方が確実なのに。


「馬鹿……」


強引なくせして結局は優しいハルを思うとなんだか泣けてきて、あたしは水圧を強めたシャワーを頭からかぶった。


< 204 / 349 >

この作品をシェア

pagetop