カプチーノ·カシス


あたしは扉を開けたたままでしばらく、課長の姿に見とれていた。

髪のてっぺんの辺りが太陽の光で茶色がかって、キラキラ光ってる。

肘まで袖を捲ったシャツから覗く腕は意外と逞しくて、銀のドリップポットを動かす度に筋肉が動くのが見えた。

そして、ドリッパーの中で粉が膨らむ様子を眺めている横顔は、どこか嬉しそうで……

その原因があたしだったらいいのにな、なんて思いながら、あたしはやっと彼に声を掛けた。


「おはようございます、課長」

「あ、おはよう。早起きさせちゃってごめんね」

「そんなの全然平気です」


そう言いながら室内に入って行ったあたしは、バッグとコートを自分のデスクに放り投げると、後ろから課長に抱きついた。


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