カプチーノ·カシス
以前から覚悟ができているのか、石原に悲しそうな素振りは見えない。
なんと言って良いのかわからない私は、運ばれてきたブレンドに口を付けて「そう……」と言うしかなかった。
「愛海ちゃんにさ、この目がなんで灰色なのか話したことあったっけ?」
自分の瞳を指さして、石原が言う。
「…確か前に、おじいさんから受け継いだって聞いたけど」
「……それ、実は嘘なんだ」
石原は、のどを潤わせるように紅茶を一口飲み、カップを置いてあたしを見た。
「僕、母さんと不倫相手との間にできた子供で……その不倫相手っていうのがロシア人だったんだ。だから本当はハーフなんだよね」
“不倫”というフレーズに、胸がドクンと波打った。
不倫関係の末にできた子供の気持ちがどんなものか私にはわからないけど……
決していい気持ちではないことくらいは、予想ができたから。
もしかすると、恋愛に関する石原の潔癖な持論は、自分の生い立ちに関係があるのかもしれないと思った。