カプチーノ·カシス


「母さんもそれは痛いほどわかっていたから、僕が小学校に上がると同時に実家を出て、二人で暮らし始めた。前の生活に比べたら貧しかったけど、母さんさえ居れば僕は幸せだった」


喉が乾くのか、何度も紅茶に口を付ける石原に対し、あたしは話の続きが気になってしまって、コーヒーをたっぷり残したまま、話の続きに黙って耳を傾けていた。


「でもさ……思春期になって、自分の立場をちゃんと理解できるようになった時…今度は母さんのこと、すごく責めるようになった。奥さんの居る人を寝取るなんて、すごく汚らわしいことのように思えて」


――耳が、胸が、頭が、ズキズキと痛んだ。

自分に言われているわけではないのに、もうやめて、と叫び出したい衝動に駆られる。


「でも、そんな時母さんはいつもこう言った。“私はあの人を本気で愛していた。その気持ちだけは信じて欲しい”……って。当時の僕には理解できなかったけどね」


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