カプチーノ·カシス


「愛海ちゃん」

「……はい」


だからあたしは、姿勢を正してその言葉を待った。


「初めて会ったときから好きでした。……僕の彼女になって下さい」


まるで中学生のような、飾らない言葉を使うのが石原らしいと思った。

そして、気持ちには応えられないけれど素直に嬉しいと思える、そんな爽やかな告白だった。


「……ごめんね。あたしはやっぱり課長が好きなの。つらいけど、幸せなの。今はまだそれに浸っていたい」

「そっか、そうだよね」

「でも……石原の話が聞けて良かった。ありがとう、話してくれて」

「ううん、気にしないで。愛海ちゃんだから話したんだよ」


石原は腕時計を見て、「そろそろ病院に戻るね」と言い残すと、伝票を持って席を立った。

あたしはその後もしばらくそこにいて、今後の自分がどうなるのかを、冷めたコーヒーを飲みながらずっと考えていた。


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