カプチーノ·カシス
ずかずかと開発室内に立ち入ってきた彼は、あたしたちが試飲の用意を済ませると、黙って問題のコーヒーに口を付けた。
それから五分ほどが経ち、絶対にもう味はわかったはずなのに、立川さんはいつまでも顔をしかめて口をつぐんだままだ。
……早く何とか言ってよ。
すると、その沈黙を破るように開発室の扉が開いた。
「ただいまー……と、あれ? 立川さんが何でここに」
なにも知らない課長が、立川さんとあたしたちを見比べて首を捻った。
「もしかして……風味異常?」
「……あたしたちはそうだと思うんですけど」
その言葉で状況を察した課長は、すぐにコーヒーの味を見てくれた。
「これは……ジャーマン?」
「はい」
あたしの答えを聞くと、課長は立川さんの方に向き直って言った。
「立川さん…これは製品にできないですね。ジャーマンを買う人が求める苦みが弱い。お客さんはなかなか侮れないですよ、きっと気づかれてしまいます。生産、ストップしてもらえますか?」