カプチーノ·カシス
◇柏木 晴斗side◇
“どういうことですか”――という石原の問いかけは、誰にも受け取られずに重みを増して、冷たい床に漂っていた。
それでもめげない石原は、愛海の側にしゃがみこんでさらに質問を続けた。
「ねぇ、愛海ちゃん。愛海ちゃんが好きなのは……課長、だよね?」
声は出さずに小さく頷く愛海の姿が目の端に映った。
「それなら……今立川さんが言ってたことは、事実じゃないんでしょ?」
視界の中の愛海は、今度は首を縦に振らなかった。
今まで、傷ついたあいつを癒すことが俺の存在意義で、課長のことで傷ついた分だけ俺に甘い時間が与えられてきた。
だから、今回のことは俺にとって悪くはない事態なはず……なのだが。
正直……今の愛海は見ていられない。
「――課長と、話してくる」
俺の言葉に、石原も愛海もこちらを振り返り目を見張った。