カプチーノ·カシス


「石原。こいつはしばらく使い物にならないだろうから、俺と課長が戻ってくるまでお前が残りの仕事をこなせ」

「それは……いいですけど……」


子供が泣くときのように床に突っ伏す愛海を、石原が心配そうに見つめる。


「頼んだぞ」


今だけ…お前に騎士(ナイト)の役を譲ってやる。


二人を残して開発室を後にした俺は、腕を組みながら廊下の壁にもたれる、最大のライバルに近づいて行く。


「……立川さん、現場に帰ったんですか」

「柏木くん……」


怒りと言うよりは、戸惑いの色が浮かんだその瞳。

立川さんに何を言われたか知らないが、“信じられない”……そんな顔だ。


今からあんたの聞きたいことを教えてやるよ。

あんたの知らない愛海は、本当はすごく弱い。

その弱さまで受け入れる覚悟がないなら……

愛海は、俺がもらう。



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