カプチーノ·カシス


「イブの夜、愛海が本当に逢いたかったのはもちろん課長だったと思います。でも……あなたとの関係ではわがままは言えない。だから、俺に抱かれたんです。どうしようもない寂しさを埋めるために」

「そん、な……」


目の前の課長の反応を見る限り、この人の前で愛海がいかに強がっていたのかがわかる。

きっといい女ぶって、聞き分けよく接していたんだろう。

本当は寂しいくせに、それを隠して笑って……


「もう……アイツに無理させんのは止めてくれませんか?」

「無理って……」

「課長の知らない所で愛海は泣いてます。たぶん、俺の知らない涙もたくさんある。その原因は、全部あなたなんです」


愛海は、不倫向きの器用な女じゃない。

自分でも知らないうちに傷を増やしている、純粋で馬鹿な、そして、愛しい女――――。


< 252 / 349 >

この作品をシェア

pagetop