カプチーノ·カシス
「……わかった」
ため息をつきながら瞳を閉じた柏木さんは、カップを静かに元の位置に戻す。
そして不機嫌そうな空気を纏いながら、足早に開発室を出て行ってしまった。
「ごめんね……色々、びっくりしたよね」
涙で剥がれ落ちたマスカラを頬に付けたままで、愛海ちゃんがぎこちなく僕に微笑みかける。
そんな顔を見せられて、僕が彼女を責められるわけがない。
胸が切なく締め付けられて、とても痛くて……僕は言葉も出せずにただ首を横に振った。
「このマグカップね……クリスマスに課長と交換し合ったの。お互いに何を贈るか示し合わせた訳でもないのに、同じものを買ってたんだよ。すごいでしょう?」
愛海ちゃんの問いかけに、僕は曖昧に頷くことしかできない。
何故なら、愛海ちゃんの表情が、全く嬉しそうじゃなかったから。