カプチーノ·カシス


アパートを後にしてしばらく走ると、僕は誰もいない公園でバイクを止めた。

バッグからさっき受け取ったマグを出して、口を付けてみる。

コーヒーに少しハチミツの混じった香りが新鮮で、美味しい。

だけど……一口飲んだきり、僕はもう口を付けることができなかった。


「……っ」


温かくて、甘くて、愛海ちゃんの優しさが詰まっているはずなのに……

切なくて、胸が詰まって、涙が溢れてきた。

一度、幸せな夢を見てしまったせいかもしれない。

告白して振られたときよりも、このコーヒーの味が僕に失恋の痛みを知らしめる。


ごめん、母さん……今日、会いに行けないや……

静かな公園に僕のすすり泣きがむなしく響く。

涙を拭おうとバックから無造作に出したズボンは、愛海ちゃんの甘い香りがして……

ますます熱くなる目頭からは、もう涙が止まらなかった。


< 268 / 349 >

この作品をシェア

pagetop