カプチーノ·カシス
アパートを後にしてしばらく走ると、僕は誰もいない公園でバイクを止めた。
バッグからさっき受け取ったマグを出して、口を付けてみる。
コーヒーに少しハチミツの混じった香りが新鮮で、美味しい。
だけど……一口飲んだきり、僕はもう口を付けることができなかった。
「……っ」
温かくて、甘くて、愛海ちゃんの優しさが詰まっているはずなのに……
切なくて、胸が詰まって、涙が溢れてきた。
一度、幸せな夢を見てしまったせいかもしれない。
告白して振られたときよりも、このコーヒーの味が僕に失恋の痛みを知らしめる。
ごめん、母さん……今日、会いに行けないや……
静かな公園に僕のすすり泣きがむなしく響く。
涙を拭おうとバックから無造作に出したズボンは、愛海ちゃんの甘い香りがして……
ますます熱くなる目頭からは、もう涙が止まらなかった。