カプチーノ·カシス


自分のベッドにユメを寝かしつけてからキッチンで溜まった食器を洗っていると、やっと落ち着いて自分の思考を働かせられるようになった。

塔子の妊娠の件はあとで本人に確認するとして……今はそれより、気になることがある。


『もう……アイツに無理させんのは止めてくれませんか?』


昼間、会社で柏木くんに言われた言葉だ。

彼と武内さんはセフレで……彼女は俺との恋では埋められない寂しさを、その関係で紛らわせていたと柏木くんは言っていた。

俺といるときの彼女はいつも幸せそうだったし、なにより彼女自身いつも“こういう関係だから仕方ない”と、割り切っているような素振りだったのに。

それが、“無理してる”――ってことだったのか……

俺は、やっぱり彼女を不幸にする存在なんだろうか。

普通のデートもできない。

将来を約束することもできない。

誰にも関係を話せない……そんなしがらみばかりの付き合いしかしてやれなくて。


俺はそれでも幸せだったけど、独身で、まだたくさん恋愛できる年齢の武内さんにはやっぱり酷だったのか……

でも……それにしたって、俺以外の男にも抱かれていたなんて。


俺は身勝手な苛立ちを抑えられず、洗い終わった食器を荒々しく水切りかごに伏せていく。


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