カプチーノ·カシス
「……なんか、狭いね」
照れくさそうに、塔子が言った。
いつもなら塔子とユメが二人、そして俺は一人でベッドを使うのだけど、ユメが俺のベッドを占領しているため、久々に夫婦で同じベッドに横たわったのだ。
「でもここに引っ越す前はもっと狭いベッドで一緒に寝てたんじゃなかったか?」
「あ……そうそう。俊樹寝相悪いからたまに落ちてたよね」
「……そうだっけ?」
俺はとぼけた振りをしたが、本当は覚えている。
塔子との懐かしくて愛しい記憶は、全部色鮮やかに、思い出せる。
「塔子」
「ん……なに?」
「……本当に、ごめん」
塔子は何も言わなかった。しばらく無表情に天井を見つめて、そして俺の方に顔を向けたときには、穏やかな笑顔だった。
「迎えに来てくれるの、待ってるから」
おやすみなさい、そう言って、塔子は瞳を閉じた。
俺はその長い髪を撫でながら、明日には武内さんに自分の気持ちを告げようと、心に決めていた。
たとえ軽蔑されることになっても構わない。
俺は、俺の一番大切なものにやっと気が付いたから……
きみのことはもう、抱き締めてやれないんだ。