カプチーノ·カシス


「もしもし?」

『……生きてたか』


皮肉めいた声で電話越しに笑うその声は、いつも通りのハルのもの。


「……ハル。それどういう意味?」

『心配してやってんだよ。昨日のショックで妙な気起こして手首でも切ってねぇかと思って』

「……縁起でもないこと言わないでよ」


顎と肩の間に携帯を挟みながら、あたしは会社へ行く支度を整えていく。

着替えと化粧はなんとかできたけれど、ストッキングだけは上手く穿けない。


「ねぇ、用件それだけなら切るよ?」

『もう出れんのか?』

「ストッキング穿けばね」

『じゃあ待ってる』


そんな言葉を最後に、呆気なく電話は切れた。


「……待ってる?」


一体、どこで?

あたしは首を傾げながらストッキングを身に着け、コートを羽織ると鞄を掴んで玄関に向かった。



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