カプチーノ·カシス
玄関にある全身鏡に映った自分は、浮かない顔はしているもののすっかり仕事用のあたし。
そっか……ハルと話していたからうだうだ悩む暇もなかったんだ。
また彼にに助けられてしまったと思うと、なんだか悔しい。
「……いってきます」
誰もいないけれどいつものクセでそう言って玄関の扉を開けると、朝日で眩しいはずのその場所に何故か大きな影が落ちていた。
「誰に言ってんだよ」
「……!? なんでここに……」
日の光を遮るのは、さっきまであたしが電話で会話していた男。
ハルはあたしを見下ろしながら、穏やかに笑っていた。
「……家の場所は、石原に聞いた。お前が今日会社休むんじゃないかと思って様子見に来たけど……意外と元気みたいだな」
「だって……仕事は休めないもん」
本当は、休みたいけど……ずっと誰にも会わずに過ごしていたいけど……
そんなことして課長にさらに幻滅されたくない。