カプチーノ·カシス
「……ハル、って」
どうしていつも、頼りないあたしの心を導いてくれるの?
どうしていつも、あたしが立ち上がれないとき、無理矢理助け起こして歩かせてくれるの?
どうして……こんなあたしのこと、好きなの?
全部心の中で問いかけただけだから、本人に伝わるわけがない。
伝わるわけ……ない、のに。
「理屈じゃねぇよ。好きなもんは好き、そういうもんだろ。だから早くお前が振られるように、こんなに努力してるんじゃねぇか」
ハルがそう言い切ったとき、ちょうど良くあたしたちの前に一台のタクシーが止まった。
「……行けよ」
“お前が振られるように”なんて意地悪なことを言いながら、あたしを送り出すその瞳は優しさに満ちていた。
あたしはそれに背中を押されるように、一人でタクシーに乗り込んだ。
ありがとう……ハル。
あたし、課長とちゃんと向き合ってくるから――。