カプチーノ·カシス


私服姿を見るのは初めてだというのに、見紛わない自分を恨めしく思った。

彼一人ならばまだ良かったのに、彼の隣には髪の長い細身の女性と、そして彼女に手を繋がれた小さな女の子が居て……

彼らはその女の子に似合いそうな服を手に取りながら、仲睦まじく会話をしていた。


内容までは聞こえない。

きっと、ものすごく平凡で、なんてことのない日常の会話なんだろう。

だけど、彼にはそれが何より大切だから。

課長の幸せはそこにあるから。


だから、あたしは……


いつまでもこの恋を引きずるわけには、いかないんだ――――。


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