カプチーノ·カシス


「じゃあ早速……」


あたしが手を伸ばしてチョコをつかもうとすると、ハルがそれを制した。


「ちょっと待て。先にコーヒー淹れる」


――あ、そうだ。忘れてた。

淹れてもらうならあれがいい。


「ねぇハル、カプチーノ・カシス作ってよ」


キッチンに向かう背中にそう声をかけると、ハルは冷たくこう言った。


「……駄目だ。今日はただのカプチーノで我慢しろ」

「なんでよ。リキュール切らしてるの?」

「そうじゃない。いいから大人しく待ってろ」


……なによ、材料あるなら作ってくれたって良いじゃない。

このチョコ、ビターチョコのコーティングの中にカシス風味のミルクガナッシュが閉じこめられているから、味はすごく合うと思う。

あの淡いピンク色の泡も、バレンタインっていうシチュエーションにぴったりだし。


それになにより……クリスマスイブの夜のことは、あたしにとっては印象深い思い出。

ハルとの関係がはっきりと形を変えたのも、きっとあの時から。

だから、カプチーノ・カシスと一緒に楽しめそうなこのチョコを選んだのに……


< 309 / 349 >

この作品をシェア

pagetop