カプチーノ·カシス


ハルはあたしの背中を優しくさすりながら言う。


「ま……ゆっくり、考えろ。重大な決断だからな」

「ハル……あり、がと……」


あたしは顔を上げて、泣き顔のままくしゃりと笑う。

ハルはそんなあたしにそっとキスを落としてテーブルの方を見た。


「チョコ……食うか?」

「ん……そうだね」


二人で一つずつチョコを摘んで、お互い相手の口に放り込む。

甘くて、ほろ苦くて……最後にカシスの香りが爽やかに鼻から抜けた。


「……ああ、この味だからあれが飲みたかったのか」

「でも……もういいよ。それよりもずっと素敵なカプチーノをもらったから」


あたしはそう言って、もう一度カップをのぞき込んだ。

そしてまた、泣きそうになる。


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