カプチーノ·カシス
今の僕には何の楽しみもない。
それどころか、目の前でガツガツと肉を咀嚼するこの新入社員、木原美波(きはらみなみ)という子の指導員にさせられてしまった。
明るくて、頭の回転が速くて、物怖じせずに何でも質問してくる彼女は優秀な人材だとは思う。
だけど、一つだけ困っているのが……
「ごちそうさまでした!ねぇ石原さん、今週の日曜ヒマですか?美波とデートして下さい!」
毎日のように、僕に猛烈なアピールをしてくることだ。
「……ごめん、ちょっと用が」
「じゃあ来週はどうですか?」
「ええと……しばらく忙しくて」
「そうですか……」
長い睫毛を伏せて、しょんぼりうつむく彼女を見ると、悪いことをしているなとは思う。
でも、愛海ちゃんに失恋して、母さんも居なくなってしまって、どうも恋愛に対して消極的になっている自分が居て……
とてもデートなんかする気になれないんだ。