カプチーノ·カシス

「……あれ?」



冷凍庫の扉は閉まっていた。

と、言うことは……中にはもう居ないということか。



「どこで油売ってるんだろう……」



僕はそう呟き、踵を返そうとした。……のだけれど。

なんとなく、胸の辺りがざわざわした。


彼女が居ないことをちゃんと確認した方がいい、そう思って重い扉に手をかけた。



「美波、ちゃん……?」



ひんやりとした冷気の中を、進んでいく。


所狭しと並んだ段ボール。


一見、人の気配はなかった。


だけど……



「――――美波ちゃん!!」



段ボールの陰でうずくまる、小さな背中を僕は見つけた。


すぐに駆け寄って、冷え切った身体を揺らして声をかける。



「美波ちゃん!美波ちゃん!」


「…………石原、さん?」



よかった……意識はある。


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