カプチーノ·カシス
「傷、見せて。中まで刺さった訳じゃないよね?」
「は……はい、全然大したことないので大丈夫です」
課長は私の指の傷を眺め、ふぅ……と呆れたようなため息をついた。
「今日、ずっと上の空だね」
「え?」
「まぁいきなり彼みたいないい男が来たら女の子は舞い上がっちゃうのかもしれないけど……あまり仕事に影響するようでは困るよ」
“彼”と言ったときの課長の目は、シンクで洗い物をするハルの背中をさりげなく見ていた。
もしかして課長……なにか勘違いしてる?
「あたし、そんなんじゃ……!」
「別に恋するなとは言わないけど……無駄な仕事は増やさないでくれるかな?」
ズキン、と鈍い痛みが胸に走った。
今のは……明らかに私に対する嫌みだ。