カプチーノ·カシス


はっきり言って、ゆっくりそんなものを飲む気になれるわけがない。

これ以上ここにいるのは、辛すぎる。

それなのに……あたしはカップを受け取ってしまった。なぜなら―――


「これ……課長のカップ、ですよね」


シンプルな白に、控えめなブルーのライン。

好きな人の持ち物は、たとえ“物”でも特別に見えるから不思議。


「えっ……? あ、しまった! いつものクセでつい」


いつもの大人な雰囲気からは予想もできない慌てぶりで、課長が頭をかいた。

……可愛い。そんな姿見せられたら、やっぱり好きだって自覚してしまう。


「これで、頂きます」

「え……」


いつも課長が口を付けているカップ。それに自分の口を付けてみたいと、そんなちょっとアブナイことをいつも思っていた。

その願いがこんな状況で叶うなんて……神様は、意地悪だ。


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