カプチーノ·カシス
くい、と少しだけ傾けたカップ。
そこから穏やかに流れ込んでくるマシュマロモカは、あたしの涙腺を刺激するのには充分過ぎるほど温かくて、甘かった。
「あたし……帰ります」
こみ上げそうになる涙を必死で堪えて、まだほとんど中身の残ったカップを課長に押しつけるように返す。
「ちょっと、甘すぎた?」
「……いえ」
口では否定して、心で本音を呟く。
……残酷なほどに甘かったですよ、と。
「それじゃ……お先に失礼します」
まだ、泣いちゃダメ。この部屋を出るまでは我慢……
「うん、気を付けてね」
課長の方を振り返らず、優しいその声を振り切るようにして、あたしは開発室をあとにした。