カプチーノ·カシス
「――ええっ! 一泊っ!?」
「そうなのぉ、どうしよう~何着てこう」
お昼休み、社食じゃこの話はできないと思ってあたしは里沙をランチに連れ出した。
胸がいっぱいで食欲はないから、食事の代わりに頼んだコーヒーフロートのアイスをずっとつつきながら、終始にやけ顔のあたし。
「何着てこうって……一応仕事でしょ?」
「二日目は観光って言ってたもん、あぁ、楽しみすぎて当日まで眠れないかも」
「……完全に舞い上がってるわね。この寒いのにコーヒーフロートなんか食べて身体冷えるわよ?」
里沙が、ほかほかのスープパスタを啜りながら呆れている。
あたしは彼女のこういうちょっと冷めたところが好きで、いつも救われている。
既婚者の相手に恋してるなんて、他の女友達なら絶対反対する。
「愛海が傷つく姿は見たくない」とかお節介なことまで言い出すだろう。
別に相手が既婚者だろうとそうでなかろうと、恋愛してれば傷つくのは当然。
そういう考えを持つあたしには、親身になってアドバイスされる方が、かえってストレスがたまることもあるのだ。
だから、いつもどこか他人事のように話を聞いてくれる里沙相手なら、あたしは大阪行きに浮かれる自分を隠さずにいることができる。