カプチーノ·カシス
「もし柏木くんの案が駄目だったらこのコーヒーを出すしかない。不本意だけど、会社っていうのはそういう場所なんだ」
あたしに言っているというよりは、自分自身に言い聞かせるように課長が呟く。
黙々とサーバーやカップを流しで洗い、片づけが済んでこちらに振り返ったその顔には、疲れの色がありありと浮かんでいた。
あたしたちが開発で盛り上がっている時にも、きっと課長はまだ悩んでいたんだ……
言われた通りの開発をしないで、勝手なことをしてもいいのかって。
「課長……大丈夫ですか?」
あまりに弱々しい姿を心配せずにはいられなくて、あたしは課長に近づく。
「……うん」
一度はそう言って微笑んだ課長。
だけど次の瞬間、その笑みがつらそうに歪んだ。
「いや……やっぱりちょっと、今回はつらいな……」
その答えを聞くと同時にあたしの体は無意識に動き、課長の大きな背中に腕を回して彼を抱きしめていた。