カプチーノ·カシス
ロイヤルブレンド


翌朝、あたしはかなり緊張していた。

できるだけ、普通に。課長に会ってもいつも通りに。

そう心の中で呪文のように唱えながら、開発室の扉を開ける。


「あ、愛海ちゃんおはよう」

「遅ぇぞ、さっさと準備して今日中に新商品の味決めるぞ」


だけどあたしを出迎えたのは、石原とハルだけだった。


「おはよ……今、準備します」


あたしはバッグを置いてコートを脱ぎながら石原に耳打ちする。


「ねぇ……課長は?」

「まだ今日は見てないけど……遅いね。いつもは一番に出勤してるはずなのに」


壁の時計を見ると、もう始業十分前だ。

こんなにギリギリまで課長が来ないことなんて今までなかったから、あたしは急に不安になった。


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