カプチーノ·カシス
まさかとは思うけど、あたしと顔を合わせたくないからなんてこと、ないよね?
ハルに元気づけてもらった筈の気持ちが、また沈んでくる。
それでもここは会社なんだから、と自分を叱咤してエプロンを付けたそのとき、開発室のドアが勢いよく開いた。
「――ごめん! 遅れた!」
そこに立っていたのは、息を切らせた課長。
その姿が瞳に入るだけで、あたしの心臓は大きく高鳴る。
「課長が遅れるなんて珍しいですね。寝坊ですか?」
「いや、朝はちゃんと起きられたんだけど……」
石原の問いかけに答えながら、課長がこちらに近づいてくる。
「おはよう……ございます」
控えめに挨拶すると、バチッと音がしたと錯覚するほどに視線が合った。