カプチーノ·カシス
その後も課長は、視線が合えば頬を赤らめる。
室内ですれ違ったときにほんの少し体が触れれば過剰に『ごめん』と謝る。
手と手が偶然ぶつかってしまったときにはその両方の態度であたしに接するものだから、ハルも石原もかなり怪訝そうに課長の行動を見ていた。
それでも開発の方は順調で、午前中のうちに新商品の豆の配合を決めることができた。
「この味に文句付ける奴がいたら見てみたい」
自信たっぷりに言うハルが淹れたそのコーヒーを、改めてみんなで試飲する。
「僕、この香り好きです。エメマンの良さがよく出てて」
「課題だった苦みも、申し分ないな」
「……本部長、納得してくれるでしょうか?」
あたしの言葉に、課長の表情がかすかに曇る。
それを見ていたら、昨日の弱気な彼の姿が脳裏に蘇り、再び抱きしめてあげたい衝動に駆られる。
もちろん、今は二人きりじゃないからそんなことはできないんだけど……