tender dragon Ⅰ
「美波さん、おはよーございます!」
「おはよう、春斗」
朝、いつも通りの時間に家を出て、春斗に挨拶をしてバイクに跨がる。
何でもないことなのに、いちいちあの夢のことを思い出して、泣きそうになった。
「美波さん、何かありました?」
そういう日は決まって、春斗がこう聞いてくる。そしてあたしは、必ずこう答えるの。
「ううん、何もないよ」
「そうっすか。何かあったら言ってくださいね」
「うん、ありがと」
希龍くんも葉太も安田さんも春斗も知らないあたしだけの秘密は、あたし1人で抱えるには大きすぎる。
でも言えないのは、きっとみんなが離れていくのが怖いから。
あたしの過去を話すことは、きっともう一生ない。聞かれたって話さない。だってもう、思い出したくないんだもん。
「行きますよ」
「うん」
もっと、強くならないと。