tender dragon Ⅰ
「…これ、美波のファーストキスね。」
あたしが戸惑っているうちに状況は一変した。
希龍くんはよく分からないことを言っていて、その瞬間にあたしの大好きな甘い香りがフワッと匂った。
月明かりに照らされていた部屋が一瞬で変化を遂げたのは、なぜ?
今あたしの目に映ってるのは、月明かりに照らされてる希龍くんの綺麗な顔で。
それは信じられないくらい至近距離にある。近すぎて、よく分からないくらいに。
「ん…」
あたしの口から漏れたのは、自分でも聞いたことのないような甘ったるい声で戸惑う。
あぁ、あたしは今
希龍くんとキスしてるんだ。
それに気づくには、随分と時間がかかった気がする。
目を閉じる暇もなかった。
暖かかった唇は数秒後には離れていて、それでも顔の距離が近くて泣きそうになる。