tender dragon Ⅰ
あたしの言葉に、希龍くんは何も言わない。
顔を見たかったけど、見たくなくて顔をあげられなかった。下を見ると、希龍くんの靴が見える。
手に持つ花束は、色とりどりで綺麗に咲いている。結衣によく似合う、鮮やかな花だった。
「あたし忘れてないよ。全部覚えてるよ。結衣と最後に話したときのことも、目を開けない結衣の姿も。」
最後まで一緒にいたのは、紛れもなくあたし。
結衣を助けてあげられる可能性があったのも、あたし。
「だから、分かってるよ…」
希龍くんの言いたいことは分かってるよ。
「でも……希龍くんにそんなこと言われたくない…っ……来なきゃよかった…!」
結局希龍くんの顔を見れないまま、逃げてしまった。それでも希龍くんは、追いかけてこなかった。
―そのまま1週間も、希龍くんに会うことはなかった…