tender dragon Ⅰ

「…はい」

あたしが何の話をしてるのか、すぐに分かったみたい。少し悲しそうに、頷いた。


「やっぱり…」

「美波さんも知ってるんですか?」

「うん、あたしも見ちゃったし…」

「最近みんな言ってますよ、希龍さんが女といるとこ見たって。」


あたしはあの日一度見ただけ。

でも、龍泉の人たちが見てる。

希龍くんが女の子と会ってるのは、あたしが見た一度だけじゃない。

あれから何度も見かけられてるらしい。


「…大丈夫ですか?」

「何が…?」


あまりに唐突な春斗の言葉に、思わず戸惑ってしまった。見透かされてるみたいで、怖い。どうしてあたしの気持ちが分かっちゃうんだろう。

いつもそう。春斗は何でも気づいてしまう。


「…いえ、何でもないです」


何だかんだ言って、きっとあたしを一番理解してくれてるのは春斗なんだろうなぁ。

あたしが空元気なのも分かってくれて。

その理由が何でなのかも分かってくれて。

無理矢理聞き出そうとしないくせに、辛いときはいつも傍にいてくれる。

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