tender dragon Ⅰ
葉太と同じように、希龍くんも最近は安田さんの家に帰ってこない。
だから会うのは久しぶりだった。
「何だ、だったら言えよなー。」
会いたくなかったのに。
「あ…あたし…っ、花瓶の水変えてくる…」
花瓶を持って、部屋を飛び出した。
もう何日、希龍くんとまともに話してないだろう。話す機会は何度もあった。
話しかける勇気がなかっただけ。
こんなとき、春斗がいたら何て言っただろう。
怒ったかな。
それとも、慰めてくれた?
……なんて、バカみたい。
春斗は今必死に戦ってるのに、あたしは自分のことばかり。
余裕、なさすぎ…
好きな人に彼女がいた。
好きな人が遊び人だった。
それだけ。
それだけ、納得すればいい。
どうしてそれが出来ないんだろう。